NACのブログ

NeurodivergentsAnonymousCircle(NAC)のブログです。

#5 おれど会: 連絡を見ること・送ることへの抵抗感についての当事者研究

2022年7月11日に行われたおれど会の研究成果報告です。教室にて対面で実施、参加人数は3名でした。新しいメンバーも参加していたため、初めに当事者研究の理念を確認してから行いました。

当事者研究では、研究発表によって周囲/社会の知識をアップデートすることが目的の一つとされています。そのため、このブログで研究成果報告を行います。

 

●参加者のうち二人から出た共通の意見

 

・連絡を見たら返さなきゃいけない(未読マークが消えると忘れるので)から、時間と精神に余裕があるときに見ようと思って結局そのまま放置してしまう。

→メールには既読後に未読に戻す機能があるので利用している。

→LINEだとスタンプで済ませられるときはそうしているが、具体的な内容の返信が必要なときは既読せずに放置してしまう。

 

●参加者のうち一人から出た意見

 

・メールやチャットでの連絡は得意。少しでも気分が上がったときにこなせる。ただし、電話での連絡は苦手。なかなか電話ができなくて手続きや予約などが滞ることが多い。思い当たる理由は二つ。

(1) 相手からどんな返事が返ってくるか分からないにも関わらず、それに対して即興で答えなければいけないから、緊張する。
(2) 敬語を間違えないか心配で、緊張する。

→電話がすごく苦手なので、メールやチャットで連絡できる職場を選んでいる。特に欠勤連絡は心理的なハードルが高いので、メールやチャットが必須。

→病院や美容院の予約などで、ネット予約できるところが増えたり、職場でもFacebookメッセンジャーやLINEで連絡を取れるケースが増えていたり、便利になったと感じている。 


・発症後まもなかった頃は体調が悪い時期に責任を果たせないことへの自責で身動きが取れなくなってしまい、音信不通を繰り返していた。

→今は「体調が悪いのでしばらく休みます」だけでも連絡するようにしていて、それによって自分も復帰しやすくなった。

 

・通知欄で見られ限られた文面から連絡の内容を予想して、なんて返信するか考えてしまうが、実際開いてみると思ったほど重い用件じゃなかったりする。

・送る文面をうだうだ考えてしまってなかなか連絡を見られないことがよくあるが、意を決して開いてしまえば結構すんなり行ったりする。

→これらが分かっているのに抵抗感が減らない。なぜ…

→書くのが一番大変で、書く決心をするのに時間がかかる。
→文面はそこまで大事じゃないと思えばもう少し気軽に書けるのではないか。

→たしかに。

・文脈によっては、相手から何を言われているか怖くて連絡を見られないことがある。

・NACのSlackの個人チャンネルをTwitter感覚で気軽に使用しているため、NACに入ってからSlack(他の団体でも使用しているチャットツール)を開く抵抗感が少し減った気がする。

 

・頼る内容の連絡が送れない。理由は二つ

(1)自分が相手に頼られたときに大変だと感じるので、自分が相手に頼ることに罪悪感がある。

(2)今いる頼れる相手がずっといるわけではないので、いつかこの人がいなくなってもできるように自分でやろうとするが、その結果失敗することもある。

 

ADHD特性が影響しているのか、進捗を確認された際に報告できるような進捗がないため、送れない。
→むしろ送って進捗を埋めない自分を認識するべきなのか

 

研究成果報告は以上です。参加者のみなさん、ありがとうございました。

#4 おれど会: 時間の約束についての困り事や経験

2022年1月11日、本年最初に開かれたおれど会の研究成果報告です。教室にて対面で実施、参加人数は雨天のためか少なめの3人でした。

 

この記事を書いている報告者の私は、時間の約束についての困り事と言えば時間に間に合わないことの悩みだろうと思い込んでいましたが、そうとも限らないことがわかりました。

 

時間の約束を守ることが困難な原因

・全般的に動作がゆっくり(スピードへの意識以上に処理速度IQの影響もあるかもしれない)

 

・生活リズムが不定のため行動予定の見通しが作りづらい

 

・守るべき約束があるという現実からの逃避

 

・ギリギリで間に合った成功体験 & 間に合わなくても許してもらえた成功体験

 

・逆に、間に合わなかった失敗体験から約束の時間を守ることに対する情熱を失っており、特に遅刻が確定した時は特別急がない。

 

・家を出るまでに必要なものを準備することが難しい。絶対に必要なものをなくして探す時間をとられたり、用意するべきものの見積もりが甘い。

 遅刻確定時にはどうせならと、「必須ではないがあれば嬉しいもの」を片っ端からバッグに詰める行動を始めてしまう。例えばモバイルバッテリーや、使う可能性がないと言い切れなさそうなクーポン券など。

 

・移動にかかる時間を超理想的な条件で計算しがち。(ここは走れば検索結果より一本前の電車に乗れるだろう、ここの乗り換えは迷わないだろう、など)

 

・逆に約束の時間を把握できている時、その時間が迫るにつれて落ち着かなくなってしまい、そわそわして何も手につかなくなってしまう。その間はやるべきことが消化できず、さらにそのことで悔しさや苦しさを感じる。具体的には不安で時計を過度に何度も確認してしまうなど。

 

原因についての感想

・間に合わせることへの情熱のなさは、学習性無気力にも通じるのではないか。苦手なものを苦手だと認識できていることは、悪いことではないのでは。

 

・【約束に遅れる不安vs甘え】のせめぎ合いのラインを動かして、不安優勢にしていきたい

 

・精神的な負担感がなるべく少なく時間を守れるようになったらいいなという理想

 

ASDにありがちな不安の強さが約束の多さと関係しているのではないか。日々のタスクを同時進行で行なったり、時間を緻密に守る必要が強い時代になり、障害の社会モデル的な観点からは、ASDの生きやすさが厳しくなっている可能性がある。

 

原因に対する提案と情報提供

・約束の時間までの残り時間が減っていくことに恐れを感じ、時間を確認しっぱなしになることについては、【①壁掛け時計を部屋に設置】【②アレクサが1分ごとに時刻を読み上げてくれる、「分刻みの時報」スキルを利用する】の2点が提案されました。

 

・動物による時間感覚の違いを調べた研究があり、ハエは人間よりも視覚情報の時間分解能が高く、1秒間に最高で260フレームを知覚できるよう。

一方ASDを対象とした認知特性の違いを調べる研究でも、知覚情報の感受性が強い傾向があり、蛍光灯の素早い点滅を認識できる人が中にはいるようだ。

時間の主観的な感覚の違いはこのあたりから生まれているのかもしれない。

 

 

遅刻をなくしたり、減りゆく残り時間への不安を解消することは難しいように思われますが、より良い形でこの困りごとと付き合っていける方法が見つかったらそのつどメンバーで共有したいと思います。生物学・医学的な観点からの指摘もあり、大変興味深い内容となりました。

以上が今回の報告となります。

#3 おれど会: 希死念慮についての当事者研究

2021年11月17日に行われたおれど会の研究成果報告です。教室にて対面で実施、参加人数は7名でした。

当事者研究では、研究発表によって周囲/社会の知識をアップデートすることが目的の一つとされています。そのため、このブログで研究成果報告を行います。

 

 

共通していた困り事/経験

 

希死念慮が発生すると、頭の中が希死念慮でいっぱいになり、他のことが考えられなくなる。自分を大切に思ってくれている人が悲しむといったことも、考えられなくなってしまう。

→他のメンバーのコメント1: 希死念慮から目を逸らせるよう、周囲のひと (NACのメンバー同士など) が他の楽しいことに誘導する。

→他のメンバーのコメント2: 一人暮らしなどで周囲の人がいないときは難しい。

 

・慢性的なストレスに晒されている中で、急性のストレスがかかるとレッドラインを超えて死にたくなる。

 

・「ゾンビ状態」(動けない状態)が続くと死にたくなる。

 

・口癖的に心の中で死にたいと唱えることがある。

 

・死にたいとは思わないが、消えたいと思うことはある。

 

・服薬で希死念慮がある程度軽減した。

 

各メンバーそれぞれのユニークな困り事/経験

※ここでいうユニークとは、その日の参加者の中では珍しかったという意味です。当事者研究はメンバー同士の同じところも違うところも大事にします。

 

・死にたいとは思わないが、生きることに対して消極的だ。

 

・自分は自傷や未遂をしたことがないから、自分の希死念慮は本物の死にたさではないという感覚。

→他のメンバーのコメント: 客観的には本物の死にたさに見える。

 

研究成果報告は以上です。

 

#2 おれど会/当事者研究って何?

NACで行われている、当事者研究「おれど会」についてご紹介します。

当事者研究とは何か

当事者研究とは何かについては、当事者研究を最初に始めた方々が既に詳しく説明してくださっているので、そちらにお任せしようと思います。

簡単に知りたい

簡単に知りたい方は、こちらのリンクをご参考にどうぞ。わかりやすいイラスト付きで、当事者研究のことをざっくりとわかっていただけるかと思います。

toukennet.jp

もっと詳しく知りたい

もっと詳しく知りたい方は、こちらのリンクをご参考にどうぞ。当事者研究について、歴史的経緯も含めそのバックボーンから理解していただけるかと思います。

toukennet.jp

NACの当事者研究「おれど会」について

NACでは「おれってどうしたらいいです会」略称「おれど会」という名前で、当事者研究をしています。一口に当事者研究といっても各団体ごとに進行方法は様々です。おれど会は他団体の進行方法を参考*¹ にさせていただきつつ、「テーマ別研究」と「メンバー別研究」の二つの方法で行なっています。順にご紹介していきます。

おれど会テーマ別研究とは?

参加者全員で同じテーマについて研究します。主に対面での開催です。テーマ別研究の流れをご紹介します。

1. 体調確認

・一人一人、自分の体調について一言ずつ報告する (一人につき1〜2分くらい)。

例: 緊張してます

ファシリテーターがサポートしやすい。

2. シンキングタイム

・黙々と、テーマに沿った自分の困り事や経験について考える (全員一斉に15分くらい)。

・紙やスマホやPCでメモを取りながら考え、書き終わったら、Slack(チャットツール)に写真やテキストでメモをシェアする。

→聴覚情報よりも視覚情報の方が得意なメンバーが、発表内容をメモからの視覚情報でも得られるので便利。

3. シェアタイム

・一人一人、自分がシンキングタイムで考えたことを語っていく (質疑応答も含め、1人につき15分くらい)。

4. 感想・まとめ

・感想のあるメンバーがいれば感想を語る (1〜2分くらい)。

・まとめとして、今回の参加者の語りがいかに有意義であるかをファシリテーターが述べる。

5. 研究成果をブログで発信

当事者研究では、研究発表によって周囲/社会の知識をアップデートすることが目的の一つとされている。そのため、ブログで研究成果を報告をする。

※個人の特定に繋がらない形で発信する。

おれど会メンバー別研究とは?

その回で語り手となるメンバーの悩み事や経験を、語り手を中心に参加者全員で研究します。主にオンラインでの開催です。メンバー別研究の流れをご紹介します。

1. 語り手が一人で研究し、資料にまとめる

・絵, 図, グラフ, テキスト, パワポなど、自分がやりやすい方法でまとめる。

・箇条書き程度の軽いものでOK。

2. サークル内で発表

・Discord(ボイスチャットサービス)にて、語り手が事前に作成した資料を画面共有しながら発表。

・聞き手の集中力が続くように、話題別に区切って語る(一区切り15分くらい)。

・語りが一区切りつくごとに、参加者全員でわいわいがやがや話す。

・チャットで参加するメンバーもいる。

おわりに

おれど会/当事者研究の紹介は以上になります。

NACでは筑波大のNeurodivergentsをグレーゾーンの方も含め、メンバーとして募集してます。ご連絡はTwitterアカウント @ITF_NACまで!

長くなってしまいましたが、ここまで読んで下さりありがとうございました。

 

参考文献

*¹ 綾屋紗月 (2017) 当事者研究をはじめよう!―――当事者研究のやり方研究. みんなの当事者研究 臨床心理学増刊 第9号 74‐99

熊谷晋一郎 國分功一郎 (2017) 来たるべき当事者研究 ―――当事者研究の未来と中動態. みんなの当事者研究 臨床心理学増刊 第9号 12‐34

 

 

#1 自己紹介

記事をご覧の皆様、はじめまして!

 

このブログは、筑波大学の一般学生団体(公認サークル)「Neurodivergents Anonymous Circle」が運営しております。今回は記事初投稿ということで、当ブログとNACについて紹介させていただきます。

 

1.Neurodivergents Anonymous Circleとは?
Neurodivergents Anonymous Circle(以下、NAC)は、筑波大学の学生による自助グループ・当事者団体です。
2022年1月現在、23人の学生が所属しています。
団体名には、Neurodivergents=「ニューロダイバーシティを持つ者たちの」、Anonymous=「匿名による(自助グループ)」、Circle=「サークル(学生団体)」という意味があります。

 

ニューロダイバーシティ(神経多様性/神経学的多様性)」とは、90年代末にある自閉症者によって生み出され、その後の欧米における自閉症者の当事者運動や社会学の領域で主に扱われてきた概念です。発達障害やその他の精神障害などの神経由来の差異を、能力の欠損や病理として捉えるのではなく、生物学的な多様性における正常な類型の1つと位置づけます。

 

自助グループ」とは、日常生活・社会生活上に何らかの困難を抱える当事者が、同様の悩みを持つ人々と互いに支え合い、その困難さを乗り越えることを目的とした集まりです。1930年代にアメリカで設立されたアルコール依存症者たちによる「Alcoholics Anonymous」を端緒として、今日に至るまで、世界中の国々で、様々な当事者による自助グループが設立されてきた歴史を持ちます。「〜Anonymous」という団体名を掲げ、匿名による活動を主としているのが特徴です。設立は2019年秋頃、まだまだ日の浅い団体です。

 

現在は、Slackによる情報共有や雑談、対面や音声会議によるミーティングや当事者研究、作業会、その他メンバーの自由な交流といった活動を行っております。

 

2.このブログでは何が読めるの?
当ブログでは、NACの活動内容やメンバーが共有したい「生きづらさ」に関する情報などを投稿していく予定です。
似た困りごとを持つサークル外の方にも情報を伝えることと、NACの活動内容をアーカイブすることを目的としています。また、読者の方々からの情報もお待ちしております。

投稿頻度は不定期ですが、できる限り多くの情報を共有していければと思います。

 

これからブログを内容豊富なものにしていけるよう頑張ります!
ぜひご愛読よろしくお願いします。

 

参考文献
村中直人(2020)ニューロダイバーシティの教科書.金子書房.

自助グループ | e-ヘルスネット(厚生労働省)